「本当に助かりましたよ、ご協力感謝します、栄子さん。」
「いえ、この程度でしたらいつでも協力しますよ。」
N.G.開発などを手がけるオラクルの様々な研究施設が並ぶ敷地を義体のエレと栄子は歩く。
武器プログラムに栄子の銃器の知識を参考にするために招いた帰りだった。
「にしてもここは広いですね。」
「ええ、研究員はほとんど施設外に出れませんので、病院からコンビにまであるんですよ、
いわば一つの町があるのと同じなんです。」
「へぇ〜。ではあの人だかりは?」
「へ?人だかり?」
栄子の指指した先には一際大きなビルの周りを取り囲んでいる人だかり。
「なんだろう・・・・ん、あれは夕紀。」
エレの目に超小型のノートPCを持った黒髪の女性がうつる。
「お〜い、夕紀〜」
「あら、エレじゃない。それに・・・・栄子さん?」
黒髪の女性、N.G.T.夕紀は振り返り、そういいながらエレ達の方に歩いてきで、栄子に手を差し出す。
「こちら(現実世界)では初めましてですね、栄子さん。N.G.T.夕紀です。」
栄子は夕紀の手を握り返す。
「こちらこそ・・・。それにしてもこの人だかりは?」
「そうだよ、イベントも何もないはずだけど・・・。」
栄子の言葉にエレも同意すると、夕紀は“はぁ〜”とため息をつきビルの中階層付近を指
差すとそこから黒い煙が出ていた。
「火の勢いは凄くないんだけど、煙がね。防火シャッターやら防火扉が閉じちゃって中階
層より上の階にいた人達が閉じ込められているのよね〜。」
小型PCのスクリーンにビルの見取り図を映し栄子とエレに見せる。
「これはマズイですね・・・・・。屋上にヘリポートが有るみたいですがヘリは?」
「今、別の所に出払ってて、こちらに来るのに時間がかかるのよ、
しかも取り残されている人達は煙吸っちゃってる人が大概で動けない状況。」
「そうですか・・・・・・・。」
真剣な顔になり夕紀の報告を聞きながらスクリーンを覗き込む栄子の横でエレは手をポンとたたいた。
「じゃあ私が助けに行くっきゃないね。」
「は?何を言っているんですか、エレさん!!危険ですよ!!」
「そうよ、エレ。」
「大丈夫だって♪私(義体)にとっては煙もどうって事ないし。」
『僕も行くよぉ〜〜〜!!』
大声で登場したのは赤髪の少女、N.G.H.、リュージュである。
「一番パワフルな娘が来た・・・・・・。まぁいいわ。
私は体力仕事は得意じゃないからね、ココでサポートに回るわ。はい、これ。」
夕紀は三つ小型の無線器を取り出し、エレとリュージュに渡し、残りの一個を・・・・
「これで、私がここから見取り図見ながら指示す・・あれ、無線機がない?」
いつの間にか夕紀の無線機を栄子が持っていた。
「栄子さん、ふざけてる時じゃないのよ。」
小型無線機を服に括り付けつつ栄子は叫ぶ。
「私も行きます!!」
「でも・・・・・。」
「足手まといにはなりません!!!」
夕紀が少し悩み込む。
「僕、もう行くよ!!」
「夕紀、早くしないと・・・・・。」
夕紀は顔を上げ言った。
「わかったわ、栄子さんも行ってもらいます。
ただ、栄子さんはエレ達と違って生身なんですから危険を感じたらすぐ戻ってきてくださいよ。」
「分かりました。」
そして、エレ、リュージュ、栄子は一気にビルを駆け上がり中階層の防火シャッターの前に立つ。
「夕紀、現場に着いたよ。」
『OK、まず確認ね。ビルは三十階建、火災は二十階、貴女達が居るのは十八階。』
「それで、避難できなかった人達は?」
栄子の質問に数秒の空白、そして無線から夕紀の声が返ってくる。
『火災当時、二十階以上に取り残されていた人は休日だったのもあって五人。
貴女達が突入した後に現場入り口に救急隊員を待機させるからそこまで運んで。』
「了解。」
栄子は無線を元に戻し、しっかり閉まった防火シャッターを見る。
「この防火シャッターからして曲者ですね。どうやって開けるんですか?」
「どうやって開けるってそりゃあ、えいっと!!」
見た目からして丈夫そうな防火シャッターをリュージュはこじ開ける。
驚いたように目をパチパチさせながら栄子は一言。
「すごいですね・・・・。」
「義体は人の数十倍は力出せるから。さぁそれじゃあ行きましょうか?」
エレがリュージュのこじ開けた防火シャッターの先に見える上の階へ続く階段を指差す。
「行こう♪行こう♪あとねぇ〜僕、栄子さんにいい物持ってきたよ♪」
リュージュが栄子に渡したのは・・・・・・・
「スコップ?」
「いやぁ〜、やっぱ栄子さんといったらこれかなぁってね。」
“あんたね・・・・”とエレが頭を押さえるが栄子は微笑み言った。
「ありがとうございます。さて行きましょうか。」
リュージュが“やっるぞぉ〜♪”と先行し、その後にエレが“気をつけてくださいね”と栄子に言い残しそれに続く。
「作戦開始です・・・・・。」
栄子は静かに呟き、火災現場に突入した。
第二話へ