頼もしい戦闘者

 

「呪に導かれし怨の巣窟・・・例えるなら奈落からの送迎劇

弱者を囲む死の物語・・・黒海!」

 

地面から突然出現した黒い粘り気のある水が複数の敵を飲み込んで消えた。

敵は多勢、複数の敵を仕留めたところで、戦況に変わりは無い。

 

「闇呪猫さん!伏せて!!」

栄子さんに、がばっと押し倒された。

地面と栄子さんに挟まれて少し息が詰まる。

直後、さっきまでいた場所をミサイルがものすごい速度で通過していった。

栄子さんが、そのままあたしに覆い被さった。

次の瞬間、爆音と熱せられた爆風ですざましい衝撃が走りぬけた。

あたしの上にいる栄子さんの衝撃は、恐らくあたしの何倍もあるだろう。

 

「くっ・・・」

栄子さんはその体勢のまま、グレネードのピンを抜いて放り投げた。

数秒後、爆発音と共に悲鳴が響いた。

 

栄子さんは、しばらく地面に伏せたまま様子を見ていたが、敵が周囲にいなくなったと判断したのか、ようやくあたしの上からずれて、近くに座る。

AK−47のマガジンを取り替えながら、栄子さんが呟いた。

「・・・さっきのはRPG−7ですね・・・ハンターというのは、ここまでの武装を持っているのですか。

あんなのを身体に受けたら一発でアウトですね・・・。」

一発アウト・・・そりゃそうだ。

「ありがと・・・栄子さん。危うく死ぬところだったわ・・・。」

「いえいえ、兵器相手の戦いは慣れて無いのですから、気にしないでください。

ここは私の得意分野ですから。任せて下さい。」

栄子さんが笑って言ってくれた。

 

たしかに、銃などを含む兵器相手というのは、魔法相手に戦うのと違う。

銃や兵器は、とにかく速い。

おかげで魔力を溜めたり魔法を詠唱する余裕がほとんど無い。

つまり、強力な魔法を使う暇が無い。

おまけに、普段よく見るハンターと違って、今日のハンターは武器がすごい。

さらに数もすごい。

もう、かれこれ70人以上は倒しただろうか。

 

そもそも、なぜ、こんな状況になったのかというと・・・

ハンターの町の北東に虹色の薬の1つが眠っているという噂を聴き、調査に向かっていた。

ハンターの本拠地の横を通りぬけるわけで、一人では流石に辛い。

遠距離戦闘慣れしていないジャムをつれて行くのも不安なので、

対ハンターに優れてそうな栄子さんに護衛を依頼したわけだ。

ところが、ハンター本拠地付近だけあって予想以上にハンターの火力が強く、苦戦している・・・。

しかも、こっちはまともに武器も無い。

AK−47と、敵から奪ったグレネード数個、そしてシャベルに、あたしの魔力ぐらいだ。

あたしの魔力も、夜じゃないために本領発揮できないでいる。

さらに月が出ていないため、強力なものが多い月属性の魔法も使えなかった。

月属性が使えないということは、あたしの戦略の幅もかなり狭くなっている。

 

 

状況は久しぶりにヤバイと思えた。

これは下手すれば二人共死ぬ可能性もある。

あたし一人で来るべきだったかもしれない。

若い命をここで散らすわけには行かない。

もし、死ぬのであれば、あたし一人で結構だ。

「・・・ごめんね、栄子さん。こんな危険な事に巻きこんじゃって。」

「大丈夫ですよ。危険な時こそ、人は強くなれるんです。今、私達にかなう敵は居ません!

相手が例え戦闘機でも戦車でも、私達は勝てますよ!」

栄子さんがにっこりと笑って言った。

「・・・ふふ、そうね。」

おかげで少し緊張がほぐれた。

200歳近く年下の女の子に励まされるなんてね・・・ふふ・・・・あたしもまだまだかしら。

これほど頼もしい戦闘者がいるなら大丈夫。

 

「いたぞー!!」

 

ハンターの声がした。

 

「ハンターが来たわ。」

「そうですね!闇呪猫さん、行きますよ!今度はこっちが攻める番です!!」

 

栄子さんのAK−47が火を噴いた・・・。